ボルダリングを始めたばかりの方が、一番最初に気になるのが「自分のレベルが今どのくらいなのか」ということではないでしょうか。ジムの壁に貼られたテープの色や「○級」という数字は、自分の上達を測るための大切な指標になります。
しかし、ボルダリングを続けていくと「A店では5級が登れるのに、B店では6級すら難しい」といった、ジムによる難易度の差に戸惑うことも少なくありません。実は、ボルダリングの級には世界共通の厳格な数値基準があるわけではないのです。
この記事では、ボルダリングの級の基準やジムによる違いが生まれる理由、そして初心者の方がどのように目標を立てれば良いのかをわかりやすく解説します。基準を知ることで、今まで以上にボルダリングが楽しくなるはずですよ。
ボルダリングの級の基準とは?ジムによって難易度の違いが出る理由

ボルダリングジムに通うと必ず目にする「級」という言葉ですが、これは一体誰がどのように決めているのでしょうか。まずは、多くのクライマーが疑問に感じる「級の基準」の正体について紐解いていきましょう。
級(グレード)が決まる仕組みと基本的な考え方
ボルダリングにおける級(グレード)は、その課題(ルート)を登りきるために必要な技術や筋力、バランス感覚などを総合的に判断して設定されます。基本的には、数字が大きくなるほど易しく、数字が小さくなるほど難しくなります。
例えば、10級からスタートして、9級、8級と数字が小さくなっていき、1級の次は「初段」「二段」と段位に変わるのが日本で一般的なルールです。この基準は、そのジムのオーナーやルートセッターと呼ばれる専門職の人が、自身の経験をもとに決定しています。
そのため、陸上競技の100メートル走のように「10秒を切ったらこのレベル」といった明確な数値基準は存在しません。あくまで、そのジム内の相対的な難易度として設定されていることを理解しておきましょう。
ジムごとの「辛め・甘め」が発生する背景
クライマーの間では、グレードの設定が厳しいジムを「辛め(辛口)」、比較的登りやすい設定のジムを「甘め(甘口)」と呼ぶことがあります。この違いが生まれる最大の理由は、基準となる「人」が異なるからです。
ジムのターゲット層によっても基準は変動します。例えば、初心者やファミリー層が多いジムでは、達成感を味わってもらうために少し優しめの設定にすることがあります。一方で、競技志向の強いクライマーが集まるジムでは、より高い技術を求めるために厳しめの設定になる傾向があります。
また、セッターの得意なスタイルも影響します。保持力(指の力)が強いセッターが作った課題は、同じ級でも指への負荷が高くなるなど、個性がグレードに反映されることも珍しくありません。ジムごとの個性を楽しむのも、ボルダリングの醍醐味と言えるでしょう。
外岩(自然の岩場)とジムでのグレードの差
ボルダリングには、室内ジムだけでなく屋外の自然な岩を登る「外岩」というジャンルがあります。一般的に、ジムの級と外岩の級を比較すると、外岩の方が圧倒的に難しいと感じる人が多いのが現状です。
ジムではホールド(突起物)が色分けされており、どこを掴めば良いか一目でわかります。しかし、自然の岩場では自分でホールドを探し、足の置き場をミリ単位で調整しなければなりません。この「判断の難しさ」が難易度を大きく引き上げます。
そのため、ジムで3級を登っている人でも、外岩では5級や6級で苦戦することもよくあります。ジムの級はあくまで「その室内環境における指標」であり、外岩のグレードとは別物として捉えておくのが賢明です。
級の基準をどのように捉えて向き合うべきか
「自分は5級クライマーだ」と固定して考えてしまうと、他のジムで登れなかった時にショックを受けてしまうかもしれません。大切なのは、級を「絶対的な実力」ではなく「その場での目安」として捉える柔軟な心構えです。
もし違うジムでいつもより下の級しか登れなくても、それはあなたの実力が落ちたわけではありません。そのジム特有のホールドの形状や、壁の角度、セッターの意図にまだ対応できていないだけという可能性が高いのです。
複数のジムを巡って色々な課題に触れることで、特定の基準に依存しない「本物の対応力」が身につきます。数字に一喜一憂しすぎず、目の前にある課題をどう攻略するかというプロセスそのものを楽しんでいきましょう。
【初心者編】ボルダリングの級の目安と目標の立て方

ボルダリングを始めたばかりの頃は、まずどの級から挑戦すれば良いのか迷ってしまいますよね。ここでは、多くのジムで採用されている初心者向けの級について、その難易度の目安を具体的に紹介します。
一般的な初心者向けグレードの目安
| 級 | レベル感 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 10級〜8級 | 入門レベル | はしごを登る感覚で、誰でも登れる |
| 7級〜6級 | 初心者レベル | 少し工夫が必要だが、運動経験があれば可能 |
| 5級 | 脱・初心者 | ボルダリング特有の動きが必要になる壁 |
10級〜8級:まずは登り方とルールを覚える
10級から8級あたりの課題は、いわゆる「入門コース」です。ホールドが大きく掴みやすい形状をしており、階段やはしごを登るような感覚でスイスイと上まで行けるように設計されています。
この段階では、筋力やテクニックはそれほど必要ありません。それよりも、ジムのルールを守ることや、決められた色のホールドだけを使って登るというボルダリングの基本に慣れることが目的となります。
まずはこのレベルの課題をたくさん登って、高いところに登る感覚や、安全な着地の方法を体に覚え込ませましょう。ウォーミングアップとしても最適な難易度なので、焦らず楽しむことが大切です。
7級〜6級:体の使い方が少しずつわかってくる
7級や6級になると、ただ上に登るだけでなく「どうやって体を動かせば楽に登れるか」を考える必要が出てきます。ホールドの間隔が少し広くなったり、少し持ちにくい形のホールドが混ざり始めたりします。
腕の力だけで登ろうとするとすぐに疲れてしまうため、足を高く上げたり、腰を壁に近づけたりといった基本的な動作が重要になります。このレベルの課題をクリアできるようになると、ボルダリングらしい達成感を感じられるはずです。
ジムに通い始めて数回目で到達できる人が多いグレードですが、ここで「腕を伸ばして足で登る」という基本を徹底しておくと、その後の上達スピードが格段に早くなります。基礎固めにぴったりの段階です。
5級:初心者の大きな壁、脱・初心者への一歩
多くのクライマーにとって、最初の大きな壁となるのが「5級」です。5級からは、単純な筋力だけでなく、ボルダリング特有のムーブ(動きのテクニック)を知らないと攻略が難しくなってきます。
例えば、体をひねって遠くのホールドに手を伸ばす「ダイアゴナル」や、足の側面を使ってバランスを取る動きなどが要求されます。また、ホールドの向きに合わせて体重移動をする必要もあり、頭を使う場面が増えてきます。
5級を安定して登れるようになれば、立派な「脱・初心者」と言えるでしょう。このレベルに到達すると、選べる課題のバリエーションが一気に広がり、ボルダリングがさらに面白くなってくる時期でもあります。
自分の適正なグレードを見極める方法
自分の適正グレードを知るためには、まず「一撃(一回も落ちずに登ること)」できる級を確認しましょう。次に、数回のトライで登れる級、そして何度挑戦してもなかなか登れない級を把握します。
一撃できる級は、今のあなたの確実な実力です。そして、数回で登れる級が「現在の適正グレード」となります。練習の際は、この適正グレードの課題をメインに行い、時折上の級に挑戦するのが理想的です。
もし自分の級がわからなくなったら、ジムのスタッフさんに聞いてみるのも良い方法です。登っている姿を見て、得意な動きや改善点とともに、おすすめの課題をアドバイスしてくれるはずですよ。
【中上級者編】4級以上の難易度と求められるスキル

5級をクリアした先に待っている4級以上の世界は、より専門的で奥深いものになります。ここからは中級者から上級者へとステップアップするために必要な要素を、級ごとに詳しく見ていきましょう。
4級:ホールドが小さくなり、足の使い方が重要に
4級に挑戦するようになると、まず驚くのが「ホールドの持ちにくさ」です。指先だけでぶら下がるような小さなホールド(カチ)や、丸くて掴みどころのないホールド(スローパー)が登場します。
これらのホールドを腕の力だけで保持するのは限界があるため、これまで以上に「足」の技術が求められます。つま先でしっかりとホールドを捉え、下半身の力で体を押し上げる感覚が必要不可欠です。
また、オブザベーション(登る前にルートを下見すること)の重要性も増してきます。どの順番で手を出し、どこに足を置くかの計画を立てないと、途中で行き詰まってしまうことが多くなるのが4級の特徴です。
3級:テクニックの組み合わせと保持力が必要
3級は、中級者の入り口とも呼ばれる難関です。このレベルでは、個別のテクニックを知っているだけでなく、それらを状況に合わせて瞬時に組み合わせる「コーディネーション」の能力が試されます。
例えば、片手でバランスを取りながら、同時にもう片方の足を高い位置にフックさせるといった複雑な動きが要求されます。また、指の力(保持力)も相当に必要となり、専用のトレーニングを取り入れ始める人も増える時期です。
3級を一つ登るためには、何度も失敗しながら最適な攻略法を見つけ出す根気強さも欠かせません。このレベルを完登できた時の喜びは非常に大きく、多くのクライマーが虜になるポイントでもあります。
2級〜1級:フィジカルとメンタルの両面が試される
2級から1級になると、もはや「誰でも努力すればすぐに到達できる」というレベルを超えてきます。圧倒的な筋力、柔軟性、そして極限の状態でも冷静に動けるメンタルコントロールが必要です。
ホールドはさらに悪くなり、一瞬の隙も許されないような厳しい配置になります。ダイナミックな動き(ランジなど)で遠くのホールドに飛びつくような課題も増え、全身をバネのように使う能力が求められます。
このレベルのクライマーは、ただ登るだけでなく、自分の体のコンディション管理にも細心の注意を払っています。1級を安定して登れるようになれば、どのジムに行っても一目置かれる存在と言えるでしょう。
初段以上:エキスパートの世界と圧倒的な実力
1級の壁を突破し「初段」に到達すると、そこはエキスパート、あるいはプロに近い領域です。段位を持つクライマーは、もはや重力を感じさせないような、しなやかで力強い動きを見せてくれます。
初段以上の課題は、一般の人から見れば「どこを掴んでいるのかわからない」ほど過酷なものです。数ミリの突起を頼りに体を支え、指先一本に全体重をかけるような、常人離れしたテクニックが駆使されます。
ここまで来ると、自分の限界を常に更新し続けるストイックな姿勢が求められます。大会に出場したり、外岩で歴史的な名ルートに挑んだりと、活動の幅も世界規模に広がっていく段階です。
ボルダリングジムの課題(ルート)ができるまでの裏側

ジムにある課題は、誰かが意図を持って作成した作品のようなものです。級の基準をより深く理解するために、課題がどのように作られているのか、その舞台裏を少し覗いてみましょう。
ルートセッティングの豆知識
ジムの課題は定期的に「ホールド替え」が行われます。これは、クライマーが同じ課題に飽きないようにするためと、新しい刺激を与えるための大切なイベントです。
ルートセッター(設定者)の役割と個性
課題を作る人のことを「ルートセッター」と呼びます。セッターは、そのジムのスタッフが行う場合もあれば、外部からプロのセッターを招いて数日間かけて全ての壁を新しくする場合もあります。
セッターにはそれぞれ得意なスタイルや哲学があります。パワー重視の豪快な課題を作る人、パズルのような緻密なテクニックを求める人、柔軟性を極限まで引き出す人など、その個性は課題に色濃く反映されます。
「このセッターさんの課題は、いつも足の使い方が面白いな」といった視点で登ってみると、グレードの数字以上の楽しみが見つかるはずです。セッターとの対話を楽しむのも、ボルダリングの知的な側面と言えます。
壁の傾斜とホールドの種類の関係
課題の難易度を左右する大きな要因の一つが、壁の角度(傾斜)です。垂直な壁(垂壁)や手前に傾いている壁(スラブ)はバランスが重要視され、奥に倒れ込んでいる壁(強傾斜)はパワーが必要になります。
セッターは、壁の角度に合わせて適切なホールドを選びます。スラブに小さなホールドを置けば緊張感のある課題になり、強傾斜に大きなホールドを置けばダイナミックで爽快な課題になります。
同じ5級でも、壁の角度が変われば全く違う能力が求められます。自分の得意な角度、不得意な角度を知ることで、グレードの基準に対して自分がどこで苦戦しているのかを分析することができるようになります。
試登(テストクライミング)による調整
ホールドを壁に配置しただけで終わりではありません。セッターは、作成した課題を実際に自分で登ってみる「試登(しとう)」を行い、難易度が適切かどうかを確認します。
「この動きは5級にしては難しすぎるな」「このホールドを少し傾ければ4級らしくなる」といった微調整を何度も繰り返します。時には、自分よりもリーチが短い人や力が弱い人がどう登るかを想像しながら修正を加えることもあります。
こうして何重ものチェックを経て、ようやく壁にテープが貼られ、私たちが目にする「○級」というラベルが付けられるのです。基準の裏側には、セッターの緻密な計算とこだわりが詰まっています。
期間限定課題と常設課題の違い
ジムによっては、数ヶ月から1年ほど残る「常設課題」と、コンペ(大会)用やイベント用に短期間だけ設置される「期間限定課題」があります。これらでも、難易度の感じ方が変わることがあります。
期間限定の課題は、特定のイベントを盛り上げるために少し特殊な動きが必要だったり、通常よりも少し甘めに設定されて達成感を演出しやすかったりすることがあります。逆に、コンペ用は実力の差を明確にするために非常にシビアな設定になることもあります。
常設課題は、そのジムの「看板」となる基準です。まずは常設課題を基準にして自分の実力を測り、イベント課題で新しい動きに挑戦してみる、といった使い分けをすると上達のバランスが良くなります。
世界で使われるボルダリングの基準・グレード表記の比較

ボルダリングの基準は、日本以外では異なる表記が使われています。海外の動画を見たり、遠征に行ったりする際に役立つ、世界のグレード表記についても知識を深めておきましょう。
日本で一般的な「級・段」方式
日本のボルダリングジムで最も普及しているのが、この「級・段」方式です。これは柔道や将棋など、日本の伝統的な習い事と同じ仕組みなので、日本人にとっては非常に馴染みやすく、直感的に理解できるシステムです。
10級程度から始まり、1級の上が初段、二段……と続いていきます。この方式のメリットは、初心者の段階を細かく刻んでいるジムが多く、始めたばかりの人が階段を登るように成長を実感しやすい点にあります。
一方で、世界的にはマイナーな表記であるため、海外のクライマーと交流する際や、海外のトポ(岩場のガイドブック)を見る際には、他のシステムに読み替える必要があります。
アメリカで主流の「Vグレード(Vスケール)」
アメリカを中心に、世界中の多くの国で採用されているのが「Vグレード(Vスケール)」です。考案者であるジョン・シャーマンの愛称「バーミン(Vermin)」の頭文字を取ってVグレードと呼ばれています。
表記は「V0」から始まり、V1、V2……と数字が増えるほど難しくなっていきます。日本の級との換算では、V0がだいたい6級〜5級程度、V3が3級程度、V10が五段程度といったイメージになります。
Vグレードは数字が上がるほど難易度の幅が広がる傾向があります。現在、世界最高難度はV17に達しており、プロクライマーたちがしのぎを削る指標として欠かせないものとなっています。
ヨーロッパで使われる「フォンテ(Font)」
フランスのボルダリングの聖地、フォンテーヌブローで生まれたのが「フォンテ・グレード」です。ヨーロッパ全域で広く使われており、数字とアルファベット(a, b, c)、そして「+」を組み合わせて表記します。
例えば「6a」や「7b+」といった書き方をします。フォンテ・グレードの特徴は、非常に細かく難易度が分けられている点です。日本の級やVグレードでは表現しきれない絶妙な難易度の差を表現するのに適しています。
少し複雑に見えますが、慣れてくると「6aを登れたら中級者」「7aを登れたら上級者」といった明確な区切りとして機能します。歴史も古く、多くのクライマーに尊敬されている伝統的なシステムです。
グレード換算表で見る国内外の差
各国のグレード基準を整理すると、以下の表のような関係性になります。ただし、前述の通りジムや岩場によって「辛め・甘め」があるため、あくまでも大まかな目安として参考にしてください。
| 日本(級・段) | アメリカ(V) | フランス(Font) |
|---|---|---|
| 6級〜5級 | V0 | 4〜5 |
| 4級 | V1〜V2 | 5+〜6a |
| 3級 | V3〜V4 | 6a+〜6b+ |
| 2級 | V4〜V5 | 6c〜6c+ |
| 1級 | V6〜V7 | 7a〜7a+ |
| 初段 | V8〜V9 | 7b〜7c |
このように比較してみると、日本の「3級」が世界的には「V3〜V4」という、脱・初心者から中級者への重要なステップであることがわかります。自分の現在の位置をグローバルな視点で見つめ直してみるのも、モチベーションアップに繋がるはずです。
ボルダリングの級や基準を知ってジムでの上達をさらに楽しむまとめ
ボルダリングの級は、あくまでも各ジムが設定した「楽しみのための指標」です。ジムによる難易度の違いは、セッターの個性やジムのコンセプトによって生まれる自然なものであり、それを否定する必要はありません。
基準を知る上で最も大切なのは、数字の結果だけに固執せず、自分の体がどう動いたか、何ができなかったかに目を向けることです。たとえいつもより低い級で落ちてしまっても、そこには新しい発見や改善のヒントが隠されています。
最後に、ボルダリングをより楽しむための級との向き合い方をまとめます。
・級は絶対的なものではなく、ジムごとの個性を楽しむ目安にする
・初心者の方は、まず10級〜8級でルールを学び、5級完登を目指す
・中級者以上は、数字だけでなく自分の得意・不得意な動きを分析する
・国内外のグレード基準を知ることで、クライミングの世界観を広げる
ボルダリングは、自分自身の成長をダイレクトに感じられる素晴らしいスポーツです。級という基準を上手に活用しながら、一歩ずつ着実に、そして何よりも楽しみながら壁に挑み続けていきましょう。



